OECD「国際成人力調査」は、成人の読解力、数的思考力、問題解決能力に関するユニークな洞察を提供する。これらのスキルは、個人的にも社会的にも成功するために不可欠であり、継続的な学習とイノベーションの基盤を形成するものである。スキルのある成人は、複雑な現代生活に対応できる能力を備えている。情報が溢れる今日の環境を効果的に操ることで、より多くの情報に基づいた意思決定や政策に貢献することができる。

2022年から2023年にかけて、この調査は31の国・経済圏の16歳から65歳の成人を対象に行われた。日本は今回2回目の参加となる（最初の参加は2011-2012年）。時系列で、また他の参加国や経済圏と結果を比較することにより、日本は成人人口のスキル習熟度レベルを把握し、スキル開発・活用の障壁を特定し、これらの重要課題に対処するための効果的な政策を立案することができる。

日本では、16歳から65歳の成人の平均得点が、読解力289点（OECD平均以上）、数的思考力291点（OECD平均以上）、状況の変化に応じた問題解決能力276点（OECD平均以上）であった（図1）。

読解力では、成人の10％（OECD平均：26％）がレベル1あるいは1未満の得点であり、読解力の習熟度が低い。レベル1では、短いテキストや情報が明確に示されている場合の整理されたリストを理解し、特定の情報を見つけ、関連するリンクを見分けることができる。レベル1未満では、短くて簡単な文章を理解できる程度である。一方、読解力でレベル4あるいはレベル5の高得点者は成人全体の23％（OECD平均：12％）である。これらの成人は、数ページにわたる長くて密度の濃いテキストを理解し評価することができる。複雑な意味や隠された意味を把握し、テキストを理解し課題を完了するために予備知識を使うことができる（読解力の各習熟度レベルで成人ができることの説明は、国際報告書第２章の表2.4、各レベルの成人の割合は図2を参照）。

数的思考力では、成人の10％（OECD平均：25％）が習熟度レベル1以下であった。レベル1の成人は、整数や貨幣を使った基本的な計算ができ、小数を理解し、表やグラフから単一の情報を見つけることができるが、複数のステップを必要とする課題（例えば割合を解く）には苦戦する可能性がある。レベル1未満の成人は、小さな数の足し算と引き算ができる。レベル4又は5の成人は、トップレベルの成績である（日本では25％、OECD加盟国・経済圏全体の平均では14％）。割合や比率の計算や理解、複雑なグラフの解釈、統計的な主張の批判的評価ができる。(数的思考力の各習熟度レベルで成人ができることについては、第2章の表2.5を、各レベルの成人の割合については図2を参照））。

状況の変化に応じた問題解決能力では、成人の11％（OECD平均：29％）が習熟度レベル1以下であった。レベル1の成人は、変数が少なく、無関係な情報も少ない単純な問題を解決することができる。それらの問題は、解答途中に変化することはない。彼らは、多段階の問題や、複数の変数をモニターする必要がある問題には苦戦する。レベル1未満の成人は、一般的に１段階で解けるような非常に単純な問題が理解できる程度である。レベル4の得点の成人は、全体の10％であった（OECD平均：5％）。彼らは問題をより深く理解しており、たとえ問題の大幅な再評価が必要であったとしても、予期しない変化に適応することができる（状況の変化に応じた問題解決能力における各習熟度レベルで成人ができることの説明については、第2章の表2.6を、各レベルの成人の割合については図2を参照）。

3分野全てを合わせた場合に、習熟度がレベル１以下であった日本の成人の割合は7％であった（OECD平均：18％）（表A.2.3）。

日本の高年層の成人（55～65歳）は、読解力、数的思考力、状況の変化に応じた問題解決能力において、25～34歳より低い習熟度を示した（図3）。読解力では、55～65歳の成人は25～34歳の成人より33点低かった（OECD平均では30点低い）。高年層の成人と若年層の成人の間のスキル習熟度の差は、加齢効果（下記参照）を反映している可能性があるが、世代間の教育訓練の質と量の違いも反映している可能性もある。

まだ学校教育に在籍している、あるいは卒業して間もない若年層の成人にとって、この国際成人力調査の結果は、学校を基盤とする評価を補完し、教育システムの質に関する有益な情報を提供するものである。日本では、16～24歳までの若年層の成人の平均得点は、読解力で298点（OECD平均を上回る）、数的思考力で299点（OECD平均を上回る）、状況の変化に応じた問題解決能力で287点（OECD平均を上回る）であった（図3）。

日本では、読解力と数的思考力において、2022-2023年の平均得点は2011-2012年と比較して同程度であった（表A.3.1）。読解力、数的思考力ともに、成績が上位の成人と下位の成人の得点差は2011-2012年と2022-2023年の間に拡大したが、その理由は正反対である（表A.3.3）。読解力では、成績が上位の成人（レベル4または5）の割合は横ばいであったが、 成績が下位の成人（レベル1以下）の割合は増加した。数的思考力では、成績が下位の成人の割合は横ばいであったが、成績が上位の成人の割合は増加した（表1.3.2）。

同じ年に生まれた成人が、異なるサイクルをまたがって、つまり異なる年齢でどのような成績を残したかを比較することで、人々が年齢を重ねるにつれてスキルが平均的にどのように変化するかについての洞察が得られる。ほとんどの国で、35歳を過ぎると加齢に伴うスキルの低下が顕著である（ただし、若年層ではより稀である）。加齢に伴うスキルの低下は日本でも観察される。1989～1996年生まれの若年層は、2011-2012年（16～23歳）の時点よりも2022-2023年（27～34歳）の時点の方が7点高いが、これは有意な変化ではない。一方、2011-2012年時点で44～54歳の年齢層は、2022-2023年（55～65歳）には29点低く、有意に低下している（図5）。

どの国や経済圏においても、教育水準が高いほど読解力、数的思考力、状況の変化に応じた問題解決能力の習熟度が高い。日本では、25～65歳の成人において、高等教育修了の成人の読解力は、後期中等教育修了の成人より34点高く（OECD平均：33点）、後期中等教育修了の成人の読解力は、後期中等教育を修了していない成人より53点高かった（OECD平均：43点）（表A.2.5 (L)）。

しかし、高等教育修了の成人の習熟度が高いというこのパターンは、必ずしも国境を越えて維持されているわけではない。例えば読解力では、日本の後期中等教育修了の成人の方が、チリの高等教育修了の成人よりも高い得点を示している（表A.2.5）。

OECD参加国・経済圏の平均をみると、読解力では女性の方が男性より高く（3点差）、数的思考力では男性の方が高く（10点差）、状況の変化に応じた問題解決能力でも男性の方が高かった（2点差）。日本では、読解力では大きな差は観察されず、数的思考力では男性の方が有意に12点高いことが観察され、状況の変化に応じた問題解決能力では有意な差は観察されなかった（表A.2.7）。

スキルは生活に大きな影響を与える。一般的に、より高いスキル習熟度は経済的・社会的に大きな利益をもたらす。より高いスキル習熟度の成人は、より高い学歴を持つ傾向があるが、より高いスキル習熟度の恩恵は、学歴に関連することを超えて広がっている。

日本では、OECD参加国全体の平均と同様、数的思考力の習熟度尺度で最高レベルの得点を取った成人は、レベル1以下の成人に比べ、有意に良い雇用機会を得ている（図6）。

日本では、同程度の学歴を持つ成人を比較した場合でも（また、より高いスキルに関連すると思われる他の違いを考慮した後でも）、スキル習熟度のレベルによる就業上のアウトカムの差は依然として残っている。このような違いを考慮すると、就業している成人の場合、数的思考力の習熟度が1標準偏差上がると賃金は10％上昇し、これは統計的に有意な差である。ちなみに、日本では教育年数が1標準偏差長くなると賃金も10％上昇する（表A.4.8）。

スキルは、個人のウェルビーイング（自己申告による健康状態や生活満足度など）と市民参加（政治的効用感、信頼、ボランティア活動など）の両方に密接に関係している。スキル習熟度の低い成人の多くは、政治的プロセスから切り離されていると感じており、複雑なデジタル情報に関わるスキルも不足している。

習熟度尺度の最高レベルにある成人は、OECD参加国全体の平均と同様、日本においても、レベル1以下の成人に比べて生活満足度が高く、健康状態も「大変良い」又は「極めて優れている」と回答する有意な傾向がある（図7、表A.4.10（N））。

日本では、習熟度尺度の得点が最も高い成人は、政治的効用感（政治情勢を理解し、影響力を行使する能力に自信があること）が高く、前年にボランティア活動に参加したことがあると回答する割合も有意に多かった。（図7）。スキル習熟度が政治的効用感やボランティア活動と正の関係を持つことは、他の多くの社会的・人口統計的特性（年齢、性別、教育年数、移民の背景、親の学歴、パートナーとの同居や子どもの有無）を考慮しても変わらない（表A.4.11（N））。

OECD諸国では、多くの労働者が仕事とミスマッチしている。つまり、彼らの持つ資格、スキル、専攻した学問分野が、現在の仕事で必要とされるものと異なっている。ミスマッチは、労働者の仕事への非効率的な配置から生じることもある。また、労働者のスキルや資格が、デジタル化、高齢化、グリーン転換などによる経済の構造変化に追いついていないという事実を反映している場合もある。

日本では、労働者の約35％がオーバークオリフィケーションであり（OECD平均：23％）、さらに5％がアンダークオリフィケーションであると回答している（OECD平均：9％）。これは、彼らの最高学歴が、現在の仕事に通常必要とされるレベルを上回っているか、下回っていることを意味する（図8）。

労働者の約29％が、自分のスキルの一部が仕事に必要なものより低いと回答している（OECD平均：10％）（図8）。その理由として、日本では、コンピュータやソフトウェアのスキルを向上させる必要がある（42％）、チームワークやリーダーシップのスキルを向上させる必要がある（40％）とする回答が多い（表A.4.13）。

最後に、46％の労働者は、最高学歴の専攻が自分の仕事に最も関連する分野でないため、専攻した学問分野の点でミスマッチとなっている（図8）。

図8におけるオーバークオリフィケーションの比率とオーバースキルの比率の乖離は、いくつかの要因によって説明できるかもしれない。例えば、自己評価型の質問への各国の回答者の取り組み方の違いが、スキルの過大や過小な評価につながる可能性がある。労働市場制度の違いも、こうした各国間の相違の一因となっている可能性がある。高学歴の労働者であっても、訓練プログラムが職場で必要とされる具体的なスキルと必ずしもうまく整合しているとは限らず、的を絞ったOJTや継続的な成人学習の重要性が浮き彫りになっている。

「国際成人力調査」は、個人インタビューと自己記入式の「評価(assessment)」によってデータを収集している。世帯調査であるため、データ収集は基本的に回答者の自宅で行われる。日本では、5165人の成人が調査に参加した（全体の回答率は約41％）。標本は、国籍、市民権、言語状況に関係なく、データ収集時に国内に居住する16歳から65歳の約7470万人を代表するように抽出された。無回答によって有意なバイアスが生じないことを確認するための分析も行われた（これらの分析の詳細については、「Reader's Companion」を参照）。

今回の国際成人力調査では、読解力、数的思考力、状況の変化に応じた問題解決能力の3つの分野で成人に評価（問題形式による調査）を行った。この評価では、これらのスキルが成人の生活の様々な場面でどのように適用されるのかを反映した一連の課題をこなすことが求められた。多くの課題は、現代社会の職場や日常生活でますます一般的になっている、データ集約的で複雑なデジタル環境を含むものとなっている。

このため、この評価はデジタル機器（タブレット端末）のみで実施された。これは、紙ベースの調査票を使用して評価を受けるという選択肢が回答者にあった前回の調査に対し、重要な革新を意味する。

これらの広範なスキル分野それぞれにおける回答者の習熟度は、評価の課題を完了した際の成功と失敗に基づいて推定することができる。スキル習熟度の推定値は0～500点の尺度で報告され、同じ尺度を使って評価課題の難易度を表すこともできる。OECDは、難易度が上がるにつれて問題項目の特性がどのように変化するかを分析することで、個別の習熟度レベルを特定し、記述することができる。ある個人の得点がある習熟度の範囲内にある場合、その人は、その習熟度と同じかそれ以下のレベルにあるどのような課題でも成功裏に完了する可能性が高いことを意味する。

国際成人力調査の参加者は、タブレット端末で評価を実施する前に、人口統計学的や背景的特性、学歴、労働市場への参加状況や雇用状況、スキルの使用、労働環境に関する情報、非経済的アウトカム、社会情緒的スキルなど、自分自身に関する情報を提供するよう求められた。背景調査は訓練を受けた調査員によって行われた。

参加者の中には、評価で用いる言語能力が十分ではなく、背景調査に答えるために調査員と十分なコミュニケーションがとれない人もいた。このような場合には、「ドアステップ・インタビュー」が行われた。この自己記入式の質問票は、様々な言語で用意されており、性別、年齢、教育年数、雇用状況、出身（国内か国外かのみ）、調査国での居住期間など、主要な個人的背景情報を収集するものである。後に、この質問調査から得られる情報のみに基づいて、統計モデルを用いて、これらの回答者の読解力、数的思考力、状況の変化に応じた問題解決能力の習熟度を推定した。

第１サイクルの調査では、ドアステップ・インタビューは利用できなかった。その結果、十分な言語能力を持たない成人の情報は収集されず、彼らの習熟度を推定することはできなかった。ドアステップ・インタビューの回答者を含めることは、第1サイクルと第2サイクルの調査結果の比較可能性に影響を与える可能性がある。OECDの報告書では、サイクル間で結果を比較する際、ドアステップ・インタビューの回答者は概ね除外されている。

OECD (2024), Do adults have the skills they need to thrive in a changing world? Survey of Adult Skills 2023, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/b263dc5d-en

OECD (2024), Survey of Adult Skills 2023 Reader's Companion, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/3639d1e2-en.

国際成人力調査についての詳細は、こちらをご覧ください。 www.oecd.org/en/about/programmes/piaac.html

より多くのデータと分析を探索、比較、視覚化には、こちらをご利用ください。https://gpseducation.oecd.org.

お問合せや詳細については、OECDのPIAACチーム（edu.piaac@oecd.org ）までご連絡ください。